Accipiter Volume 16 (2010)

原著

栃木県におけるカワウの生息状況のモニタリング調査  平野敏明・野中純・川田裕美・河野宏之

 2000年7月から2010年3月にかけて、栃木県におけるカワウPhalacrocorax carboの生息状況を明らかにするために、塒調査を行なった。栃木県内におけるカワウの塒は、1年あたり4~12か所が記録され、2005年以降になると栃木県の北部や山地帯にも新たな塒ができた。各塒におけるカワウの就塒個体数は、いずれの季節も調査ごとに著しく変動した。このような、カワウの分布の拡大や塒の利用個体数の変動は、銃による駆除や追い払いなどの人為的な撹乱が原因と思われた。調査期間中におけるカワウの就塒個体数は、7月が807.9±280.05羽、12月が1734.2±479.09羽、3月が1407.1±326.9羽で、7月が最も少なく12月が最も多かった。また、3月の就塒個体数は12月の個体数の平均25.9%少なかった。調査期間中の個体数指標は、2000年を1とすると2009年の7月と12月ではそれぞれ1.77と1.25と増加した。一方、3月の個体数指標は、2001年を1とすると2010年では0.55と減少した。また、栃木県内のカワウの個体数指標の年ごとの変化率は、有意な変化は得られなかったが、7月と12月がそれぞれ7.3%と7.4%で増加傾向に、3月では-0.5%で減少傾向にあった。栃木県ではカワウは少数が毎年繁殖を試みているが地権者により駆除されているため、ほとんど巣立ちしていない。さらに、2000年以降最高937羽が有害鳥獣駆除や狩猟によって捕殺されている。それにもかかわらず栃木県内の7月と12月の個体数が増加しているのは、沿岸部の繁殖地から移入が続いているためと思われる。一方、3月の減少の理由はよく分わからなかった。

 

宇都宮市戸祭町における夜間に記録された鳥類の経年変化  樋口弘

 栃木県宇都宮市戸祭町において1986年1月から2009年12月の24年間、自宅で主に鳴声を確認することで夜間に活動する鳥の生息状況のモニタリングを行なった。調査期間中、調査地の環境は、宅地化によって著しく変化し、樹林地や農地がほとんどなくなった。調査地では、24年間に日没後30分から日の出前30分のあいだにゴイサギ、アオサギ、カルガモ、キジ、ヒクイナ、ホトトギス、アオバズク、ヨタカ、トラツグミの9種を記録した。これらの中には、調査期間中にその記録状況が著しく変化した種がいた。ヒクイナは1991年以降、アオバズクは2005年以降それぞれ記録されなくなった。ヒクイナが記録されなくなったのは、河川改修による生息環境の悪化が原因と考えられた。一方、ゴイサギとアオサギ、カルガモは途中から記録されるようになった。これらの種の生息状況の変化の理由のひとつは、河川改修によって川幅が広がり、水深が浅くなることで良好な採食環境が新たに出現したことと、調査地周辺における生息個体数が増加したことが考えられた。さらに、キジの記録状況は年によって著しく変動し、調査地における宅地開発の過程での一時的な草原の出現状況との関係が考えられた。

 

渡良瀬遊水地における標識調査報告(2009)  深井宣男・吉田邦雄・山口恭弘

渡良瀬遊水地で実施している鳥類標識調査において、2009年は繁殖期の調査で1種1羽、秋の渡り調査で48種2.587羽、合計48種2.588羽が新放鳥された。また、16種167羽が再捕獲された。100羽以上新放鳥された優占種は、オオジュリン、カシラダカ、アオジ、ノゴマであった。秋の渡り調査について過去10年の平均と比較すると、ノゴマとカシラダカが多く、ツグミが少なかったが、全体では種数は例年並みで、新放鳥数はやや多かったが、優占種の構成にも変化はなく、本年の鳥類の渡来状況は例年とほぼ同様であったと考えられる。再捕獲例は、オオジュリンで同一シーズン内の移動回収が5例あったが、特筆すべき記録はなかった。

短報

渡良瀬遊水地におけるオオセッカの初めての巣卵の記録  平野敏明

2010年6月10日に、栃木県栃木市の渡良瀬遊水地においてオオセッカLocustella pryeri の1巣を確認した。巣内には少なくとも3個の卵を確認した。繁殖の成否は明らかでなかったが、本記録は渡良瀬遊水地における初めての確実なオオセッカの繁殖記録である。

 

渡良瀬遊水地で観察されたマダラチュウヒ  平野敏明

2010年6月8日に、栃木県栃木市の渡良瀬遊水地第1調節池にてマダラチュウヒの成鳥雄1羽が記録された。本個体は少なくとも当地に4日間留まっていたと推測された。本記録は、渡良瀬遊水地および近隣地域での3例目の記録である。

 

群馬県におけるミサゴの繁殖初記録  冨岡裕己・荻原淳・野中純

2010年8月31日に、群馬県片品村の山地帯(標高1400m)の湖沼でミサゴの繁殖を確認した。これは、群馬県における本種の初めての繁殖記録である。

観察記録

真岡市におけるツルクイナの観察記録  石川フク